気ままな読書ノート

日本の小説を中心に読んだ本の感想を書いています。時々IT関連本や本の自炊の話題も。最近は自炊した書籍をiPhoneで再読することも多いです。

きのうの影踏み - 辻村深月

辻村深月が書く怪談集。 といっても恐怖で震えてしまうというよりは、背中がすこしゾクってなる感じ。幾つかの話は、これってエッセイ?と思うような語り口で、本当にあった出来事なのかと不思議な気分になりました。 「十円参り」と「噂地図」は誰もが持っ…

朝が来る - 辻村深月

普通の人がほとんど知らない日本社会が抱える問題について、少女の視点から描いた社会派小説。 特別養子縁組を扱ったとても重い内容でしたが読んでよかったと思います。 幼いながらも妊娠出産し、結局子供を手放さなくてはならなかったひかり、子供が授から…

君の膵臓をたべたい - 住野よる

タイトルに興味を持ち読みました。人との交わりを避けて生きる少年、死を宣告されていながらも、その対極にあり人との交わりを大切にする少女。この二人を中心に、切なくもあり、爽やかな青春の1コマを描いた小説。ラストは思わぬ展開で胸が締め付けられまし…

サラバ! 下 - 西加奈子

上巻を読んでから、かなり時間が経ってしまいましたが、下巻読み終わりました。 歩が転落していくのは、家族との関わり合いを避け、すべてを人のせいにしていたツケが回って来たということなのかな。 姉が歩に言う「あなたが信じるものを、誰かに決めさせて…

人工知能は人間を超えるか - 松尾豊

人工知能についてわかりやすく説明してくれているので、今のAIで何が出来て何がで出来ないかがよくわかります。 でも、具体的なAIの仕組みの話になると、第2次AIブームまでは具体的なイメージを掴めるのですが、機械学習、ディープラーニングになると、具体…

2015年に読んだ本のまとめ

2015年に読んだ本は48冊。ちょうど1ヶ月に4冊、僕としてはかなりいいペースで読むことができました。 心に残ったベスト5は以下の5作品。 ナオミとカナコ - 奥田英朗 邂逅の森 - 熊谷達也 槐(エンジュ) - 月村了衛 模倣犯 - 宮部みゆき 鉄の骨 - 池井戸潤 『…

邂逅の森 - 熊谷達也

マタギの狩猟の仕方を克明に描いた職業小説かと思って読み始めましたが、すこし違っていましたね。マタギの世界に身を置く男・松橋富治の壮絶な生き様を描いた物語でした。厳しい自然と共に生きてきた日本人の魂や生きる力を描いているといったら良いのでし…

過ぎ去りし王国の城 - 宮部みゆき

アバターを使って絵の中に入り込むことができる、そんな不思議な絵を偶然手にいれた中学3年生の「尾垣真」。同級生の「城田珠美」との二人でどんな楽しい冒険を始めるのだろうかと思って読み始めたら、話は想像とは違う方向に。 ファンタジーとはいえ、扱っ…

乗取り - 城山三郎

自炊してiPhoneで再読。 昭和20年代の高度成長期に実際に起こった百貨店乗っ取り事件をモデルにして創作された小説です。 旧態依然とした百貨店経営者側と株を買い占め乗っ取りを図る実業家青井との戦いを描いています。 地の利を生かしていないと憤慨し百貨…

孤剣―用心棒日月抄 - 藤沢周平

用心棒日月抄シリーズ2作目。今回も面白かったです。 1作目は忠臣蔵と絡ませて話が進む嗜好を凝らした内容だったけど、今度の作品は又八郎と佐知との静かな恋も絡ませ、娯楽性をより前面に押し出した感じです。 藩の重要な密命を受けていながら、明日の飯の…

鹿の王 (下) - 上橋菜穂子

下巻も読むのに苦労しました。漢字にへんなカタカナ読みを振ってあるのは随分となれましたが、多くの民族と多くの登場人物、それぞれが複雑に絡まっているので、誰がどういった立ち位置なのかが把握し難かったです。たぶん作者はそういった複雑に絡み合った…

鹿の王 (上) - 上橋菜穂子

2015年本屋大賞第一位の作品。 岩塩鉱で奴隷として囚われていたヴァンが、そこから逃げ出す物語の最初のシーンは圧巻。 しかし、登場人物が多く、主人公ヴァン以外のキャラの特徴がつかめなく、読むの苦労しました。漢字に変なカタカナ読みを振ってあるのも…

小さいおうち - 中島京子

昭和初期から終戦までを東京で女中として過ごした女性タキが、昔を思い出しながら書いた手記が主要な部分を占めるこの小説は、中島さんがまるで当時を生きて来たみたいに、当時の東京の姿を再現してました。当時の人々の生き生きとした姿が目に浮かぶようで…

ナオミとカナコ - 奥田英朗

「やがて読者も二人の“共犯者”になる」と本の紹介にある通り、ふたりの主人公ナオミとカナコに感情移入しすぎて、僕も共犯者の気分になりました。 ナオミの章では、DV夫が殺されても仕方がないとは思うものの、そんな完全犯罪なんて出来るのだろうかと心配で…

黄金伝説 - 半村良

自炊してiPhoneで再読。 半村良らしい伝奇SF小説。昭和47年の直木賞候補作品。面白い。 キリストの墓伝説、UFO、新人類、遮光器土偶などいろんな要素盛りだくさんで、読者を飽きさせない。 結末にむけて多少強引な感じもしたけど、奇想天外で途方もないホラ…

姫神 - 安部龍太郎

amazonの紹介には「倭国、新羅、高句麗、百済の四カ国の平和を願う 聖徳太子の遣隋使プロジェクトが九州・宗像から動き出す!」とあり、壮大なスケールで描かれる古代日本の物語と期待して読みはじめましたが、うーんイマイチ引き込まれませんでした。 主人公…

森は知っている - 吉田修一

「太陽は動かない」は未読。「太陽は動かない」がエピソードIIだとすると、本作は、エピソードI。「太陽は動かない」の存在を知らなかったので、物語がどう展開するのか全く読めずにハラハラドキドキで、引き込まれました。 柳との友情、詩織との恋を絡ませ…

鉄の骨 - 池井戸潤

建設業界の談合を扱った社会派小説。 数年前に小池徹平くんが主演したNHKのTVドラマを見て、いつか原作も読んでみたいと思っていた作品です。 骨太のTVドラマも良かったですが、原作も同様にぐいぐいと話の中に引き込まれました。 企業が生き残るための談合…

珍訳聖書 - 井上ひさし

自炊してiPhoneで再読。 花の浅草ドッグ座の犬芝居、人気ストリッパーのマリアが狂犬病を発症、弟の刑事犬・犬塚と医師犬・犬丸が感染経路を探るべく捜査を開始した...がしかし... 意外などんでん返しの繰り返しで読者を翻弄するエロと笑いのナンセンス戯曲…

人質の朗読会 - 小川洋子

地球の裏側で反政府ゲリラによって拉致された8名の日本人が、いつ死を迎えるかわからない状況で、人生のなかの印象的な出来事を語りだします。極限状態にいる彼らが淡々と語る物語に心打たれます。実に小川洋子さんらしい作品だと思いました。 心に残ったの…

夢からの脱走 - 小松左京

自炊してiPhoneで再読。 12編の短編が収められています。戦争を題材にした「召集令状」と「夢からの脱走」は、村上龍の「五分後の世界」と通じるものがあり恐ろしい話でした。「三本腕の男」は世の中を見通す力に脱帽。そして、タイムパラドックスを扱った「…

レオナルドの扉 - 真保裕一

レオナルド・ダ・ヴィンチが遺した秘密のノートを巡り、イタリアの小村に住む若き時計職人ジャンが活躍する夢と冒険の物語。 作者があとがきで書いているように、まるでアニメの原作を読んでいるようでした。敵役のビクトールバレルが主人公ジャンの行く先々…

夢魔の標的 - 星新一

星新一が書いた初の長編SFホラー。星新一の得意とするショートショートと同様とても読みやすい文章でした。 仕事の相棒である腹話術の人形・クルコが自分の意思とは関係なく突然勝手にしゃべり出す。自分の声なのに自分の意思ではないという不思議な現象に悩…

長いお別れ - 中島京子

アルツハイマー型認知症を発症した元中学校長・東昇平とその家族の10年の物語。 こういった環境に置かれたことはない僕には想像をはるかに超えた苦労の連続。そんな中、昇平を介護する妻曜子の前向きでくじけない姿勢は本当に素晴らしい。自分が同じ立場なら…

魔法飛行 - 加納朋子

『ななつのこ』の続編。 短大生駒子の日常に起きる不思議を綴った連作短編ミステリー。 駒子の周りで起こる謎を綴った物語に、恋人の瀬尾さんが手紙による返信で謎解きをするという形式。 なんとも言えないみずみずしい感性に今回もやられました。切ないけれ…

用心棒日月抄 - 藤沢周平

約2年ぶりに読む藤沢作品。面白い! 訳あって脱藩し江戸で用心棒をして生活する青江又三郎の活躍を描いた連作時代小説。ところどころにユーモアを交えた語り口が実に読みやすい作品でした。 忠臣蔵と絡めることで徐々に緊張が高まっていくのも素晴らしいと思…

闇のよぶ声 - 遠藤周作

自炊してiPhoneで再読。 遠藤周作にしては珍しいミステリー小説です。ある若い女性が神経科医の会沢を訪ねて来るところから物語は始まります。三人のいとこが謎の失踪し次は自分なのかと不安にさいなまれる婚約者の精神状態を心配して、彼女は病院を訪れるの…

槐(エンジュ) - 月村了衛

月村了衛さんの作品初読みです。 これほど夢中になって本を読んだのは、本当に久しぶりです。実に面白い作品でした。 夏休み恒例のキャンプに出かけた中学生7名が、武装した半グレ集団の抗争に巻き込まれてしまいます。最初の50ページは、なんのことはない普…

秋月記 - 葉室麟

葉室麟さん、初読み 九州の小藩秋月藩の財政再建に奔走した「間小四郎」の半生を描いたこの作品、期待以上でした。 家老宮崎織部の専横を正すために、志を同じくする仲間たちと立ち上がり、いわゆる「織部崩れ」を為すまでと、その後の小四郎の苦悩の対比が…

男たちの経営 - 城山三郎

自炊して iPhone で再読。内容を完全に忘れていたので、初めて読むような新鮮さがありました。 花王の創業から始まり、同族経営から脱却し近代化するまでの実名企業小説。実名ということで、小説としては制約が多いためか、事実の羅列っぽい感じが否めません…