気ままな読書ノート

日本の小説を中心に読んだ本の感想を書いています。時々IT関連本や本の自炊の話題も。最近は自炊した書籍をiPhoneで再読することも多いです。

海の仙人 - 絲山秋子

宝くじにあたった主人公の河野は、会社を辞めて、海が美しい敦賀でひとりひっそりとした生活をしています。そこへ突然、変なおじさんが姿をあらわします。それが、神様「ファンタジー」。
この変な神様「ファンタジー」と、孤独に向き合う男女が織り成すちょっと切なく美しい物語。
あまりにも唐突なファンタジーの出現にかなり戸惑いましたが、落ち着いた文章と小気味のよい台詞がとても気に入りました。

この物語のテーマは、「孤独」でしょうか。主人公「河野」も、恋人の「かりん」も、そして、河野に想いをよせる「片桐」も、みな孤独です。
その片桐が言った台詞が印象的でした。

「孤独ってえのがそもそも、心の輪郭なんじゃないか?外との関係じゃなくて、自分のあり方だよ。背負っていかなくちゃいけない最低限の荷物だよ。例えばあたしだ。あたしは一人だ、それに気がついているだけマシだ」

人は、多かれ少なかれ孤独と向き合って生きていくものだと思います。でもその孤独を一人寂しい孤独ではなく、なんといったら良いのか上手い言葉が見つからないけれど、「肯定的な孤独」として受け入れることのできた主人公河野のラストは静かな感動を与えてくれます。

長編とは言えないくらい160ページほどの短い物語ですが、とても中身が濃い、文学の香りがする良い作品だと思います。
ただ、ファンタジーっていったい何だったのだろうか? もうすこし、読者に分かるような説明か逸話がほしかったと思います。

海の仙人 (新潮文庫)

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