気ままな読書ノート

日本の小説を中心に読んだ本の感想を書いています。時々IT関連本や本の自炊の話題も。最近は自炊した書籍をiPhoneで再読することも多いです。

暁の密使 - 北森 鴻

仏教の聖地チベットを目指し、単身、中国を旅した実在の仏僧「能海寛(のうみゆたか)」を主人公とした物語。
ミステリー作家と知られる北森鴻氏の作品ということで、ミステリー小説として読めなくはないですが、史実を題材にした冒険歴史小説として読んだほうが良いと思える作品です。

時代は、日露戦争開戦前の明治時代。アジアでの勢力を拡大しようとするイギリス、ロシアなどの欧米列国、それを何とか阻止しようとする日本。そんな歴史の転換点の時代に、純粋に日本の仏教再興を願い、仏教聖典を得るために、当時鎖国状態だった仏教の聖地チベットに潜入しようとする能海。しかし、本人の知らないところで、政治的に利用されてしまう主人公の過酷な運命を描いています。

最初の数ページは読みにくさが気になったものの、それ以降は冒険活劇的な要素も加わり、グッと物語の中に入っていけました。
それにしてもこのラストに、史実とはいえ、彼にとっての人生の意味とは何だったのかを、思わずにはいられませんでした。

暁の密使 (小学館文庫)

暁の密使 (小学館文庫)