エスケイプ/アブセント - 絲山秋子
女性が書いたとは思えない文章に脱帽です。
闘争と潜伏にあけくれ20年を棒に振った活動家の主人公(江崎正臣)が活動家から足を洗い妹が経営する託児所を手伝うことを決心するのですが、その新しい人生を始める前の1週間ほどの短い旅の様子を描いています。
旅先で出会った人たちとの関わり、自由さ、いい加減さ、ふしぎな明るさがなんともいえず羨ましかったりします。まあ短い旅が終われば、現実的な生活が待っているのですがね。
僕が読む小説の中ではこういった冴えない駄目な男が主人公というのはかなり珍しいのですが、現実に目をやれば、彼ほど極端ではないにしろ、どこかしら駄目な部分をもっていて、自分の歩いてきた人生にちょとした疑問符を感じている人が大半なんじゃないかな。だからこそ、ダメダメな彼と同じ境遇になりたいとは思わないけれど、なぜか共感してしまうんじゃないかな。
この「エスケイプ」と対をなす江崎正臣の双子の兄の物語「アブセント」も良かった。