小さいおうち - 中島京子
昭和初期から終戦までを東京で女中として過ごした女性タキが、昔を思い出しながら書いた手記が主要な部分を占めるこの小説は、中島さんがまるで当時を生きて来たみたいに、当時の東京の姿を再現してました。当時の人々の生き生きとした姿が目に浮かぶようです。この物語は、僕の大きな2つの誤解を解いてくれました。ひとつは戦前の都会の人々の暮らし向き、もうひとつは女中という職業。
タキが仕える家の若奥様時子の美しさ、可愛らしさに、板倉と同様きっと僕も恋してしまうんだろうなと思えるほどでした。
そして最終章、主観的に語られていたある出来事が、客観的な事実となって顕になった時に、タキの甥の息子(結婚しなかったタキにとっては孫のような存在)が混乱したように、僕自身も混乱してしまいました。誰にでも人には言えない秘密があるものです。最後にその秘密に触れ、不思議な余韻を味わっています。とても良い作品だと思います。