鹿の王 (下) - 上橋菜穂子
下巻も読むのに苦労しました。漢字にへんなカタカナ読みを振ってあるのは随分となれましたが、多くの民族と多くの登場人物、それぞれが複雑に絡まっているので、誰がどういった立ち位置なのかが把握し難かったです。たぶん作者はそういった複雑に絡み合った世界で懸命に生きようとする人々を描きたかったのだろうと思いますが、誰が善で誰が悪かという単純な世界ではないため、自分がどの視点でこの物語を読んだらいいかよくわからなかったのもその理由かもしれません。
それでも最後は、鹿の王となった主人公ヴァンの姿に心を動かされました。
一番読み応えがあったのは、ホッサル、ヴァン、ミラル、サエの4人で、なぜ人は病むのかについて語り合う場面。たぶんこれって他の人とは違ってるんだろうなと思います。
あくまでも個人的な意見ですが、確かに面白いといえば面白いのですが、大絶賛している人が多い割には、僕には何か物足りない気がしました。
鹿の王 (上) - 上橋菜穂子
2015年本屋大賞第一位の作品。
岩塩鉱で奴隷として囚われていたヴァンが、そこから逃げ出す物語の最初のシーンは圧巻。
しかし、登場人物が多く、主人公ヴァン以外のキャラの特徴がつかめなく、読むの苦労しました。漢字に変なカタカナ読みを振ってあるのも気になりました。単語2、3個程度ならば良いが、あまりも多すぎます。ファンタジーを読むことがほとんどないのですが、ファンタジーってそういうものなのでしょうか? ストーリー自体は面白いのにちょっと残念です。なので最初の出だしは良かったけど、期待したほどは引き込まれませんでした。
もう一人の主人公ホッサルが下巻でヴァンとどのように関わっていくのか。後半に期待したいと思います。
小さいおうち - 中島京子
昭和初期から終戦までを東京で女中として過ごした女性タキが、昔を思い出しながら書いた手記が主要な部分を占めるこの小説は、中島さんがまるで当時を生きて来たみたいに、当時の東京の姿を再現してました。当時の人々の生き生きとした姿が目に浮かぶようです。この物語は、僕の大きな2つの誤解を解いてくれました。ひとつは戦前の都会の人々の暮らし向き、もうひとつは女中という職業。
タキが仕える家の若奥様時子の美しさ、可愛らしさに、板倉と同様きっと僕も恋してしまうんだろうなと思えるほどでした。
そして最終章、主観的に語られていたある出来事が、客観的な事実となって顕になった時に、タキの甥の息子(結婚しなかったタキにとっては孫のような存在)が混乱したように、僕自身も混乱してしまいました。誰にでも人には言えない秘密があるものです。最後にその秘密に触れ、不思議な余韻を味わっています。とても良い作品だと思います。
ナオミとカナコ - 奥田英朗
「やがて読者も二人の“共犯者”になる」と本の紹介にある通り、ふたりの主人公ナオミとカナコに感情移入しすぎて、僕も共犯者の気分になりました。
ナオミの章では、DV夫が殺されても仕方がないとは思うものの、そんな完全犯罪なんて出来るのだろうかと心配でしたが、カナコの章でそれが現実になり、自分が追い詰められいくようで、胃が痛くなってしまいました。
最後はほっと胸を撫で下ろせましたが、二人はこれからどうやって生きていくのだろうかと心配です。
ページをめくるのが辛い、でも先を知りたい、そんな感情を持って本を読んだのはほんとうに久しぶりです。
僕の中では、今年のベストワンかも。
黄金伝説 - 半村良
自炊してiPhoneで再読。
半村良らしい伝奇SF小説。昭和47年の直木賞候補作品。面白い。
キリストの墓伝説、UFO、新人類、遮光器土偶などいろんな要素盛りだくさんで、読者を飽きさせない。 結末にむけて多少強引な感じもしたけど、奇想天外で途方もないホラ話が本当に有り得るかも?と思えてしまう手腕はさすが。
そのホラ話の中で一番気になったのは、この小説の舞台となる戸来地方の地名がどこまでが本当の名前なのかということ。
井出山:イーデー山
鉄砂利川:テッサリア
泥根:ドードーネー(ドドネ)
苫呂山:トマーロス(トマロス)
戸来:ヘルロイ(へロイ)
榛名山:パルナッソス
全部本当の地名なのかな。そうだとすると奇跡としか言いようがない。