気ままな読書ノート

日本の小説を中心に読んだ本の感想を書いています。時々IT関連本や本の自炊の話題も。最近は自炊した書籍をiPhoneで再読することも多いです。

エディプスの恋人 - 筒井康隆

七瀬シリーズ三部作の完結編。前作とはまた違った作品。
筒井康隆の本を開いてまず感じることは1ページの中に文字がびっしりとあるということです。他の作家の作品と比べるその違いが一目瞭然です。
たとえば、会話。普通ならば、会話ごとに改行するのですが、筒井康隆は改行を極力控えています。たとえば、

「いや、そうじゃないね」木下は強くかぶりを振った。「あの二人はとても仲が良かった。それに...」

というように改行をせず、会話が続くことでページの下が空白になることを意識的に避けているようです。
そうかと思うと、大胆に文字をページに配置し、人の意識を視覚的に表現し読者を楽しませてくれます。
話を本作品に戻すと、テレパスである七瀬がその能力を生かして活躍するという2作目の続きを期待して読みすすめると、まったく違う作品に戸惑ってしまうかもしれません。
「エディプスの恋人」では、高校の事務員をしている七瀬ですが、前作のラストからの連続性が途切れていて「なぜ?」という疑問は、なかなか解き明かされません。まあ、そんなことは気にせずに純粋に物語の面白さを堪能したほうが良いです。
なんといても僕にとっての圧巻は、七瀬の恋人の父親・頼央の数十ページにもおよぶ「語り」です。これは、作者が悪乗りしているんじゃないかと思うぐらい長い長い「語り」ですが、引き込まれます。

「エディプス」とは「エディプスコンプレックス」のエディプスであり、その恋人が七瀬ということなのだと思いますが、僕のように「エディプスコンプレックス」が何なのか良く知らないまま読み進めたほうが良いと思います。そのほうが、「あっ」というラストが待っています。
後半はちょっと観念的な部分があり、理解しがたい部分もありますが、挑戦的な作品だと思います。



エディプスの恋人 (新潮文庫)

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