気ままな読書ノート

日本の小説を中心に読んだ本の感想を書いています。時々IT関連本や本の自炊の話題も。最近は自炊した書籍をiPhoneで再読することも多いです。

灯のうるむ頃 - 遠藤周作

ガンの特効薬の開発に取り組む町医者を描いた作品。
主人公・牛田善之進はひとり黙々とガンの研究を続けているのですが、ある偶然から実験用のねずみがガンに強い抵抗力を示すことに気がつきます。それをきっかけに実験をかさね、癌に効く試薬を開発し、その研究結果を学会に発表しようとしますが、どこの派閥にも属さない善之進は学会の厚い壁に阻まれて、最後に大きな挫折を味わうことになります。
ハッピーエンドの終わり方ではないし、不条理にさえ思える結末ですが、それでもこの本を読み終わった後は、不思議と穏やかな気持ちになります。
弱い人間、挫折した人に優しいまなざしを投げかける遠藤周作ならではの作品ですね。
表舞台にあがらなくてもそれは人生の敗北ではない。普通の人間にとって大切なことは地に足をつけて生きてゆくことなんだなと思う。

灯のうるむ頃 (角川文庫 緑 245-17)

灯のうるむ頃 (角川文庫 緑 245-17)