気ままな読書ノート

日本の小説を中心に読んだ本の感想を書いています。時々IT関連本や本の自炊の話題も。最近は自炊した書籍をiPhoneで再読することも多いです。

春のオルガン - 湯本香樹実

小学校を卒業したばかりの12歳の少女と弟の成長の物語。
大人の身勝手さに揺れ動く多感な少女の気持ちが、丁寧に描かれていています。
湯本香樹実の「夏の庭」や「西日の町」など今まで読んだ作品もそうでしたが、この作品も、子どもとお年寄りとの関わりがとても重要な要素となっています。おじいちゃんとの会話により、彼女が一歩前へ進めるようになるのですが、子供を持つ親としていろいろ考えさせられるものがあります。
それと、ふとしたことで知り合った、野良猫にえさをあげるおばさんとの交流も重要な要素であり、大人とのかかわりが、子供の成長には大きな影響を与えるのだなということを改めて教えてくれます。
この小説は、通常の小説にあるように、ある結末に向かってさまざまなエピソードがひとつに収斂されてゆく、ということがありません。文庫本の解説にも書かれていますが、これは、現実の世界そのものです。それでいて、読み終わったときに、温かさすがすがしさを感じさせるのは、彼女の力量のなせる技なのでしょうか。

春のオルガン (新潮文庫)

春のオルガン (新潮文庫)