気ままな読書ノート

日本の小説を中心に読んだ本の感想を書いています。時々IT関連本や本の自炊の話題も。最近は自炊した書籍をiPhoneで再読することも多いです。

日日平安 - 山本周五郎

映画「椿三十郎」の原作にもなった「日日平安」をはじめ、戦前、戦中、戦後に書かれた山本周五郎の代表的な江戸もの11篇の短編が収録されています。
ユーモアたっぷりのものから、シリアスなものまで、バラエティに富んだ作品で、どれもまったく古さを感じさせません。うまく言葉で表せませんが、時代が変わっても変わることのない日本人のもつ徳とか価値観とか、そういったことが描かれているように思います。
みな読後感も良いし、これは本当にお薦めの本です。

どれも心を打つ素晴らしい作品ですが、その中での一番は、「橋の下」でしょうか。
ある若侍が、橋の下で生活する乞食同然の老人に偶然に出会います。老人が話す若いころの苦い思い出を聞くことで、若者が人生の上で重大な決断をするという話。
老人の台詞が心に残ります。
「あやまちのない人生というやつは味気ないものです。心になんの傷ももたない人間がつまらないように、生きている以上、つまずいたり転んだり、失敗をくり返したりするのがしぜんです。そうして人間らしく成長するのでしょうが、しなくても済むあやまち、取返しのつかないあやまちは避けるほうがいい、―私がはたし合を挑んだ気持は、のっぴきならぬと思い詰めたからのようです、だが、本当にのっぴきならぬことだったでしょうか。」

日日平安―青春時代小説 (時代小説文庫)

日日平安―青春時代小説 (時代小説文庫)