森は知っている - 吉田修一
「太陽は動かない」は未読。「太陽は動かない」がエピソードIIだとすると、本作は、エピソードI。「太陽は動かない」の存在を知らなかったので、物語がどう展開するのか全く読めずにハラハラドキドキで、引き込まれました。
柳との友情、詩織との恋を絡ませて、産業スパイへと育てられていく高校生・鷹野の成長が、産業スパイとして生きて行く覚悟を決めるまでのエピソードを描いたエンターテイメント。
鷹野の生い立ちは、数年前の監禁されたまま亡くなってしまった悲惨な幼児虐待事件を思い出しました。
「ここよりも、もっといい場所あるよな」という鷹野の言葉が心に残ります。
著者の「死ぬな、生きろ」という強いメッセージを感じる作品でした。
ただ、水道事業の民間参入についてはもう少し詳しく書いて欲しかった。この部分が腑に落ちなかったので、なぜ情報を盗み出すのかという点で、納得感がいまいち弱かったような気がします。
鉄の骨 - 池井戸潤
建設業界の談合を扱った社会派小説。
数年前に小池徹平くんが主演したNHKのTVドラマを見て、いつか原作も読んでみたいと思っていた作品です。
骨太のTVドラマも良かったですが、原作も同様にぐいぐいと話の中に引き込まれました。
企業が生き残るための談合は許されるのか?
談合って本当に悪いことなのか?
答えを出すのが難しい問題に直面した時、若者はどう行動するのか?
会社が生き残るための談合に加担せざるをえない立場になった入社4年目の平太が懸命に生きる姿がとてもリアルに描かれていて印象的でした。
結局は、常務・尾形の使いっ走りでしかなかった平太でしたが、その中で彼が成長していく姿にエールを送り続けていました。
それにしても平太の恋人・萌にはまったく共感できなかったなー。
珍訳聖書 - 井上ひさし
人質の朗読会 - 小川洋子
地球の裏側で反政府ゲリラによって拉致された8名の日本人が、いつ死を迎えるかわからない状況で、人生のなかの印象的な出来事を語りだします。極限状態にいる彼らが淡々と語る物語に心打たれます。実に小川洋子さんらしい作品だと思いました。
心に残ったのは「やまびこビスケット」「B談話室」「コンソメスープ名人」。それと、この拉致現場を盗聴していた政府軍兵士が語る、もうひとつの物語「ハキリアリ」も。
僕には彼らのように語る物語があるのかな?そんな疑問にとらわれました。ささいな出来事を人生のなかの大切な思い出にできるかどうかは自分自身の問題なのだなーとしみじみと思います。
静かな感動を運んでくる慈しみに満ちたこの作品オススメの本です。