気ままな読書ノート

日本の小説を中心に読んだ本の感想を書いています。時々IT関連本や本の自炊の話題も。最近は自炊した書籍をiPhoneで再読することも多いです。

2008-01-01から1年間の記事一覧

おすすめ文庫王国2008年度版

来年読む本を探すために、購入しました。毎年、年末に発行される「本の雑誌」増刊号です。「本の雑誌が選ぶ2008年文庫ベストテン」、「上橋菜穂子が選ぶオールタイム文庫ベストテン」、SF、ミステリ、時代小説、ノンフィクションなどのさまざまなジャンルご…

悩む力 - 姜尚中

序章からの抜粋 本書では、誰でも具わっている「悩む力」にこそ、生きる意味への意思が宿っていることを、文豪・夏目漱石と社会学者・マックス・ウェーバーを手掛かりに考えてみたいとおもいます。 科学技術の発達や自由主義経済の発展は、人間の生活を便利…

笑うな - 筒井康隆

筒井康隆のショートショート集。240ページの中に34編の作品が詰め込んであります。久しぶりに読み返してみました。シニカルな作品、ブラックユーモアな作品、ナンセンスで馬鹿馬鹿しい作品、ちょっとノスタルジックな雰囲気の作品など様々なジャンルのショ…

春のオルガン - 湯本香樹実

小学校を卒業したばかりの12歳の少女と弟の成長の物語。大人の身勝手さに揺れ動く多感な少女の気持ちが、丁寧に描かれていています。湯本香樹実の「夏の庭」や「西日の町」など今まで読んだ作品もそうでしたが、この作品も、子どもとお年寄りとの関わりがと…

すべてがFになる - 森博嗣

「森 博嗣って面白いですよ」と会社の後輩に勧められたのが、たぶん、もう一年近く前になるかな。読もう読もうと思っていたのですが、やっと読みました。最初に読むのは、いくつか候補のなかからデビュー作のこの作品と決めたのですが、正解でした。エンター…

希望の国のエクソダス - 村上龍

この本は、日本の現状、教育制度に絶望した中学生80万人がいっせいに登校を拒否し、インターネットを駆使したビジネスを展開し、自分達の理想の国を作り上げようとする物語です。こう書くとものすごく荒唐無稽なお話と感じるかもしれませんが、実際に読んで…

PLUTO (6)

徐々にPLUTOの謎が明らかになってきて、核心に迫りつつあるゲジヒがどう対応するのかと期待していたら、思いも寄らぬ展開になり、この巻が終わってしまいました。うーん、哀しいというかつらいというか、茫然自失の状態になってしまいました。これからどうい…

夏への扉 - ロバート・A・ハインライン

SFの古典的名作。数年前から読みたい本リストには入っていたのですが、やっと読むことができました。発表されたのが、1957年ですから。今から51年前の作品です。舞台は、近未来の1970年と2001年。会社を共同で運営していた親友と対立し、会社を去ることにな…

新釈 遠野物語 - 井上ひさし

柳田国男の名著『遠野物語』の世界に挑戦する、井上ひさしの現代の怪異譚9話。ということですが、僕は『遠野物語』を読んだことがないので、比較することはできません。でもとても面白かったです。遠野の近くに住む国立療養所でアルバイトをしている青年が、…

疾走 - 重松清

まさに「衝撃作」という言葉がぴったりの小説でした。一度狂ってしまった歯車は元に戻すことはできないのか、そんな疑問を抱きながらこの本を読み終えました。少年少女達の前に起こるあまりにも悲惨な出来事の数々。これを乗り越えることのできる子供達なん…

青い小さな葡萄 - 遠藤周作

遠藤周作の初期の純文学作品。この作品は、敗戦国である日本とドイツの青年が救いを求め、「青い小さな葡萄(神、善意の象徴)」を追い求める物語です。日本人、ドイツ人という理由だけで迫害を受ける彼らは、「青い小さな葡萄」を探すことで救いを得ようと…

絶対音感

絶対音感とは何か、音楽家にとって必須の能力なのか?そんな疑問から、一流音楽家、科学者200人以上に証言を求め、膨大な文献を調べ、絶対音感とは何かを明らかにしたノンフィクション作品です。この本によれば、「絶対音感とは特定の音の高さを認識し、音名…

風雲に乗る

日本信販の創業者をモデルとした小説です。旅館の子として生まれた主人公が、さまざまな苦難を乗り越え、日本初で日本最大の信販会社を興したサクセスストーリーです。しかし、サクセスストーリー言うには、あまりにも厳しくつらい現実が立ちはだかり、「風…

聖の青春

このノンフィクション作品はパワーがあります。難病と闘いながら,29年の短い生涯を生き抜いた棋士・村山聖(さとし)プロの物語です。 発病する前の幼い頃から、生涯を終えるまでが丁寧にそして力強く描かれています。子供時代にプロを目指すと宣言する情熱あ…

キッチン - 吉本ばなな

泉鏡花文学賞を受賞した「キッチン」とその続編「満月―キッチン2」、デビュー前の作品「ムーンライト・シャドウ」の3編が収録されています。3編とも、身近な人の「死」の痛手からの再生をテーマにした物語で、悲しさから感傷にひたっていても幸せはやって…

博士の異常な発明 - 清水義範

マッド・サイエンティスト達の異常な発明を扱った連作短編集です。とても風変わりな小説です。風刺が効いたSFユーモア小説?と分類したらよいのでしょうか。とにかく面白いです。8つの短編集のなかで、一番可笑しかったのは、「袁孫の発明」。中国・唐の時…

石の血脈 - 半村良

半村良の処女作でもあり、「伝奇ロマン」や「伝奇SF小説」と呼ばれるジャンルを開拓したとされる記念碑的作品です。久しぶりに読み直しました。アトランティスの謎、巨石信仰、犬神信仰、狼男、吸血鬼伝説などなど伝記ロマンの題材を広範囲に融合させてあり…

豊臣秀長―ある補佐役の生涯〈下〉- 堺屋太一

この小説の特徴は堺屋太一らしく、経済という視点で戦国時代を見ている点でしょう。戦国時代の大名たちも戦の出費に苦労していたとか、兵農分離がなされていないがための苦労があったということは、あまり語られない部分だと思うのですが、そういったところ…

幸福な食卓 - 瀬尾まいこ

とても読みやすい文章で、すいすいとページをめくることができました。 中学生の主人公佐和子の母は家を出て別居中。父は「父親を辞めた!」と宣言してしまう、でも家族崩壊とも違う、ちょっと変わった形態の家族の物語。 兄は天才少年と謳われていながら、…

豊臣秀長―ある補佐役の生涯〈上〉- 堺屋太一

一農民から天下人にのし上がった豊臣秀吉の実の弟「秀長」の生涯を描いた小説の上巻。上巻は、兄秀吉が織田信長に仕えだした頃から、永禄11年(1568年)信長が上洛し、秀吉が京都の政務官になるあたりまでが描かれています。戦国時代の歴史にそれほど詳しく…

読書入門―人間の器を大きくする名著

『声に出して読みたい日本語』で有名な斎藤孝さんの本の紹介本です。最近、強く「読みたい!」と思う本がなくて、良い本はないかなと探していたときに見つけた本。目次を見ると、僕が読んだことのない本ばかりが紹介されています。僕も今までに随分と沢山の…

継ぐのは誰か?- 小松左京

若い頃はSF小説ばかりを読んでいて、小松左京は大好きな作家の一人でした。『継ぐのは誰か?』は読むのは2度目であり、久しぶりにSFらしいSFを読んだという気がします。年代設定は、地球上から戦争が途絶えてから久しい時代ということなので、たぶん21世紀…

口笛をふく時 - 遠藤周作

最近は昔読んだ本を読み返すことが多いですが、これもそのうちの一冊。再読には当たらないくらい、内容はすっかり忘れていました。この作品は、戦中派の父親と戦後生まれの息子の間の断絶がテーマの一つ。今は、戦後生まれのおじいちゃんもいる時代なので、…

灯のうるむ頃 - 遠藤周作

ガンの特効薬の開発に取り組む町医者を描いた作品。主人公・牛田善之進はひとり黙々とガンの研究を続けているのですが、ある偶然から実験用のねずみがガンに強い抵抗力を示すことに気がつきます。それをきっかけに実験をかさね、癌に効く試薬を開発し、その…

エディプスの恋人 - 筒井康隆

七瀬シリーズ三部作の完結編。前作とはまた違った作品。筒井康隆の本を開いてまず感じることは1ページの中に文字がびっしりとあるということです。他の作家の作品と比べるその違いが一目瞭然です。たとえば、会話。普通ならば、会話ごとに改行するのですが…

七瀬ふたたび - 筒井康隆

『家族八景』に続く、七瀬シリーズの第2弾。若い頃読んだ作品を再度読み直してみました。前作は、連作短編という形態でしたが、『七瀬ふたたび』は長編ものとなっています。精神感応能力(テレパシー)である主人公七瀬が、他人にそのことを知られるのを恐れ…

生物と無生物のあいだ

話題になった本だけあって面白いです。前半は、生命の謎に挑んだ科学者たちの熱きドラマがあります。DNAの発見をめぐる科学者たちの苦労と激しい競争が鮮やかに描かれていて、上質なミステリーを読むようなそんな感覚で読み進めることができます。そして後半…

逃亡くそたわけ - 絲山秋子

21歳の学生で自殺未遂をはかり精神病院に入院させられていた躁病の「花ちゃん」は、鬱病の「なごやん」を無理やり誘い病院から脱走する。二人は、なごやんの車で九州縦断の目的地の無い逃避行の旅に出る。『海の仙人』のときもそうだったが、面食らうくらい…

辛酸―田中正造と足尾鉱毒事件

明治時代後半に実際にあった栃木県の足尾銅山公害事件を取り上げた作品。現在は渡良瀬遊水地になった栃木県下都賀郡谷中村の人々が理不尽な立ち退きを命じられ、それに抵抗する村人たちとそれを支援した田中正造の凄まじい生き様を描いています。それにして…

誰か - Somebody - 宮部みゆき

財閥会長の個人運転手・梶田が自転車に轢き逃げされて命を落とした。梶田の娘たちの依頼で、事件の真相を追いかけるうちに意外な方向に展開してゆく..いきなりですが、「誰か」の文庫本の解説から引用します。 「ハリウッド映画のような、起伏にとんだ展開が…