気ままな読書ノート

日本の小説を中心に読んだ本の感想を書いています。時々IT関連本や本の自炊の話題も。最近は自炊した書籍をiPhoneで再読することも多いです。

2009-01-01から1年間の記事一覧

手鎖心中 - 井上ひさし

手鎖心中を再読しました。井上ひさしの直木賞受賞作です。とにかく人を笑わせたい、笑われたいと切に願う材木問屋の一人息子栄次郎が、戯作者を目指し奮闘する姿を描いた悲喜劇。とてもテンポの良い文体と洒落っ気たっぷりのストーリーがとても楽しい作品で…

リピート - 乾 くるみ

10か月前に戻り、やり直しができるとしたら... そこに幸せはあるのだろうか。タイムトラベル物ですが、一緒に戻った仲間が次々に命を落としてゆく展開は、ミステリーファンも十分に唸らせることができる出来だと感じます。かなり面白かったです。ラストは、…

DEADLINE - 建倉圭介

第2次世界大戦で欧州戦線に参加し、負傷して米本国に帰還したミノル・タガワは、大学に復学し、世界初のコンピューター開発計画の1メンバーとして携わることになります。しかしそれがきっかけで、原爆が日本へ投下されることを知ります。ミノルは、その前に…

おすすめ文庫王国2009年度版

今年も、「おすすめ文庫王国」の季節がやってきました。来年読む本の候補を探すのに購入しました。たぶんなんだかんだと(総合ベストテン、ジャンル別ベストテン、読者のベスト1、佐藤多佳子が選ぶオールタイムベストテンなどなど)数百冊の文庫本が紹介さ…

砂の城 - 遠藤周作

随分前に読んだ本の再読です。母が遺した「美しいものと、けだかいものへの憧れだけは失わないでほしい」という言葉の意味を探し求める若い女性の青春小説です。どうしようもない男に惚れ、身をもち崩すおろかな女性と、まじめで常識的な主人公泰子との極端…

袋小路の男 - 絲山秋子

「袋小路の男」「小田切孝の言い分」「アーリオ オーリオ」の3つの短編が収められています。表題作「袋小路の男」は、川端康成文学賞作品で、高校時代から12年間、指一本触れないまま、一人の男性を想い続けた物語。と書くと、切なく苦しく哀しいというイメ…

風の陣[大望篇] - 高橋克彦

高橋克彦著 『風の陣ー立志篇』に続く第2弾、「大望編」は、藤原仲麻呂改め恵美押勝が権勢をにぎってから、"恵美押勝の乱" で果てるまでの時代を描いています。史実では、この恵美押勝打倒のために、主人公の牡鹿嶋足、物部天鈴らがどれくらい関わったのかは…

遥かなるケンブリッジ

イギリスでの1年間の生活が生き生きと描かれています。藤原正彦氏の観察力の鋭さが良く表れているとても上質なエッセイだと思います。数学者が書いた文章ですが、すらすらと、そして楽しく読めました。情景描写などの文章がとても上手いという印象を持ちま…

風の陣 [立志編] - 高橋克彦

高橋克彦ワールド全開です。面白いです。熱いです。ワクワク感がたまらないですね。『風の陣』は、朝廷と東北の蝦夷の戦いを描いた『火怨』の30年ほど前の話です。時代は奈良時代。朝廷は大仏建立で大仏にふく黄金を欲しています。そんな折、東北の陸奥で…

探偵ガリレオ - 東野圭吾

東野圭吾の探偵ガリレオシリーズの第1弾。テレビドラマ『ガリレオ』の原作です。犯人探しではなく、科学的なトリックの種明かしに比重が置かれていて、犯人を追い詰めてゆくという展開には比重が置かれていません。そこがこの作品の特徴のような気がします。…

私家版 日本語文法 - 井上ひさし

学生時代に退屈な授業といったた「文法」がその代表格だと思いますが、井上ひさしの『私家版 日本語文法』は、その退屈な日本語の文法を、実に楽しく学ぶことのできるユーモアあふれる本です。井上ひさしの日本語に対する愛情が伝わってきます。僕が特に面白…

あわせ鏡に飛び込んで - 井上夢人

井上夢人「あわせ鏡に飛び込んで」は、これまで雑誌などで発表された短編を収録した文庫本オリジナルです。それぞれの作品に作者自身のコメントが添えられているという珍しい一冊です。全部で十篇の作品が収められていますが、どれもはずれ無し佳作ぞろいだ…

侍 - 遠藤周作

江戸時代初期、伊達政宗の命によりメキシコ、ヨーロッパに渡航した支倉常長(はせくら つねなが)がモデルとなった小説です。いわゆる「慶長遺欧使節」ですね。歴史教科書ではなかなか知りえない時代背景と壮絶な人間ドラマがここにはありました。小説では、…

終末のフール - 伊坂幸太郎

「8年後に小惑星が落ちてきて地球が滅亡する」と発表され、世界はパニック状態になり、治安が大きく乱れます。その5年後、秩序がかなり回復した仙台の北部の「ヒルズタウン」の住民の生活を描いた連作短編集です。未来が無い絶望的な状況で人々はどう生きて…

ボーイズ・ビー - 桂 望実

母親を亡くした小学6年の少年・隼人と、たまたま知り合った偏屈で他人との交わりを拒む靴職人の70歳のじいさんとの心の交流を描いた作品です。僕は、靴職人の園田栄造の視点でがこの小説を読み進めましたが、他人との関わりを避けてきた栄造が、少年との…

およね平吉時穴道行 - 半村良

半村良の初期の作品8編が掲載されています。本当に久しぶりの再読だったので、表題作の『およね平吉時穴道行(およねへいきちときあなのみちゆき)』の切ないイメージだけが微かに残っていたくらいで、全く内容を忘れていました。現代人が過去にタイムスリ…

マイナス・ゼロ - 広瀬正

僕にとってSFと言えば、やはりタイムトラベルです。この作品は、タイムトラベルものでは日本SFの金字塔的作品で、ハインラインの傑作「夏への扉」と比べても引けを取らない素晴らしい出来だと思います。終わり方もとてもいいですね。その先にどんな出来事が…

弥勒の月 - あさのあつこ

小間物問屋「遠野屋」の若おかみ・おりんの溺死体が見つかった。安寧の世に満たされず、心に虚空を抱える若き同心・信次郎は、妻の亡骸を前にした遠野屋主人・清之介の立ち振る舞いに違和感を覚える。―この男はただの商人ではない。闇の道を惑いながら歩く男…

海と毒薬 - 遠藤周作

太平洋戦争末期に実際にあった九州帝国大学医学部で起こった事件がモチーフになっているとのことです。外人捕虜を生きたまま解剖するという実験に参加することになってしまった医学生の勝呂、戸田、看護婦の上田のそれぞれの視点でこの事件を描いています。…

黄金旅風 - 飯嶋 和一

おすすめ文庫王国2008年度版で第1位として挙げられていた作品です。「飯嶋和一にハズレなし」と賞される歴史小説の巨人が描いた、一級の娯楽巨編、とのことだったので、読んでみました。でも、娯楽巨編というよりは、史実をもとにした歴史伝記ものといった趣…

日日平安 - 山本周五郎

映画「椿三十郎」の原作にもなった「日日平安」をはじめ、戦前、戦中、戦後に書かれた山本周五郎の代表的な江戸もの11篇の短編が収録されています。ユーモアたっぷりのものから、シリアスなものまで、バラエティに富んだ作品で、どれもまったく古さを感じ…

眼の誕生 - カンブリア紀大進化の謎を解く

スティーヴン・ジェイ グールドの『ワンダフル・ライフ―バージェス頁岩と生物進化の物語』を読んだのはいつのころだったでしょうか?この『ワンダフル・ライフ』の日本語版が発行された(今は文庫本でよむことができます)のが、1993年ということだから、た…

声の網 - 星新一

ずいぶん前に読んだ本を再読しました。現代のインターネット社会が持つ問題点を40年も前に予見していたということで、数年前に復刊され、評判になっていた本です。内容は、電話網が高度に発達した時代、すべての情報が電話を介し、背後にあるコンピュータ…

流星ワゴン - 重松清

2002年に「本の雑誌」年間ベスト1に輝いた作品であり、Blogの書評などでも絶賛している方が多い作品です。ただ、期待が大きすぎたのがいけなかったのでしょうか。涙するところまではいきませんでした。性的描写も不要のような気もしました。とはいっても、「…

宇宙創成 (上)(下)

原題は、『BIG BANG』。ですが、ビッグバンの詳細を説明する解説本ではありません。地球や月、太陽の大きさを推定した古代から、現在のビッグバンモデルに辿りつくまでの壮大な科学歴史ドラマです。そして、理論と実証という科学の両輪の重要性を余すところ…

彼の生き方 - 遠藤周作

子供のころから吃音で悩む気の弱い主人公の福本一平が、唯一心を開くことができたのが動物でした。そんな彼が大人になり、野性の日本猿の研究者となります。しかし、彼の行く手には、「権力」が立ちふさがり、彼の生き方そのものを否定しようとします。そん…

ねこ耳少女の量子論

なぜか、家内が買ってきた本です。結局僕が読みました。ここに書いてある内容は、量子論のさわりの部分で、素人の僕でも、「ああ、これはどっかで読んだな」という内容がほとんどでしたが、頭の片隅に追いやられていた知識を再度呼び戻すことができました。…

サイエンス・イマジネーション 科学とSFの最前線、そして未来へ

平たく言えば、ロボット本です。『人とロボットの秘密』(堀田純司著)を読んで、別のロボット研究の本を読みたいと思い、選んだのがこの本です。第65回世界SF大会/第46回日本SF大会「Nippon2007」でのシンポジウム「サイエンスとサイエンスフィクションの最前…

人民は弱し 官吏は強し

大正時代には全盛期を迎えた星製薬会社の創業者であり、ショートショートの第一人者である星新一の父親である星一(はじめ)氏の伝記小説です。ずいぶん前に一度読んだことがありますが、最相葉月の『星新一 1001話をつくった人』を読んで、再度読んでみた…

PLUTO (7)

面白いけど難しいマンガです。そこがこのマンガの魅力なのですが、一回読んだだけでは、「これはどういう意味なんだろうか」と理解できない箇所がたくさんあります。次の第8巻が最終巻ということで、これまでの謎がそろそろ解決してもいいころなのですが...…