気ままな読書ノート

日本の小説を中心に読んだ本の感想を書いています。時々IT関連本や本の自炊の話題も。最近は自炊した書籍をiPhoneで再読することも多いです。

2007-01-01から1年間の記事一覧

虹の天象儀 - 瀬名秀明

とても、情緒的でノスタルジーを感じるSFファンタジー作品です。『パラサイトイブ』『BRAIN VALLEY』を書いた作家とは思えないほど、その作風が異なっていました。「BOOK」データベースより まるで宇宙船のようにも見える、不思議な形をした星の投影機。44年…

国語元年 - 井上ひさし

1985年にNHKで放映されたドラマのために書かれた戯曲。セリフとト書きで構成されているため、物語の中に入ってゆけるかなと心配したが、杞憂でした。実に楽しく一気に読んでしまいました。明治七年、文部官僚・南郷清之輔は「全国統一話言葉」の制定を命…

PLUTO (5)

今回も読ませてくれました。また、一人のロボットがPLUTOに敗れ去ってしまいます。事件解決への大きな進展が無い中で、主人公ゲジヒトの過去が明かされ、憎しみという感情を持っってしまった高性能ロボットの深い悲しみが、紙面からにじみ出てきます。PLUTO…

平成お徒歩日記 - 宮部みゆき

「お徒歩」と書いて「おとほ」ではなく「おかち」と読むんだそうです。この本、宮部みゆきの小説以外の本で、一風変わった紀行物というんでしょうか。江戸物を得意とする彼女ですが、苦労するポイントが、「時間と距離」なんだそうです。深川浄心寺裏の山本…

西日の町 - 湯本香樹実

湯本香樹実の作品を読むには、『夏の庭』『ポプラの秋』に続いてこれが3冊目です。彼女の作品を読んで毎回驚かされるのはその文章の上手さです。説明調の文章はほとんどなく、それでいて登場人物の心の動きや情景を上手く表現されています。時代は昭和30…

海馬―脳は疲れない

糸井重里と脳科学者・池谷祐二の対談集。 良い意味で予想を裏切ってくれました。 単なる知的好奇心を満たすだけの本ではありませんでした。実際に役に立つ情報も豊富で、脳を科学するってのは、生活をそして人生を科学するってことなんだなーなんて思ってし…

Google vs セカンドライフ 3Dウェブ仮想社会の覇権争い

予想していた内容とはちょっと違いました。「リンデンリサーチやGoogleの戦略とか今後の行方」、「2社の対決はあるのか、あるとすればどうなるのか」、「セカンドライフなどのメタバースが発達することで、世の中がどう変わるか」、「個人の関わり方はどうな…

あのころの未来 - 星新一の預言

ショートショートの神様・星新一の作品を題材にしたエッセイ集。臓器移植、クローン、バイオテクノロジーなど最先端技術が抱える問題と、星新一がショートショートの中で予想した未来の問題重ねあわせ、「最相 葉月」の持論を展開しています。星新一が描いた…

Joel on Software

米マイクロソフトやjuno(大手ISP)などで、ソフトウェアの設計、開発に従事した著者(Joel Spolsky)のエッセイ集。http://www.joelonsoftware.comで公開していたものを書籍化したもの。プログラミング、デバッグ、設計、仕様書、マネジメント、エンジニアの採…

卵の緒 - 瀬尾まいこ

家族を題材にした「卵の緒」と「7's Blood」という2編が収められています。 家族といっても、血の繋がりがない親子だったり、異母兄弟だったりと、いわゆる一般的な家庭ではありません。でも、そこに描かれているのは、確かな繋がりをもった家族であり、ああ…

幻色江戸ごよみ - 宮部みゆき

12編の短編が収められている時代もの。どれも、内容濃いです。読後の余韻を12回味わえるとてもお得な作品集ですね。『幻色』の名が示すとおり、ホラー的な要素を取り入れたものが多いですが、すべてがホラー的かというとそんなことはありません。作者の…

暗号解読 下巻

下巻はいっきにコンピュータを使った暗号の話になるのかと思ったら、古代文字の解読の話から始まった。子供の頃(今でもだが)どうして古代文字の解読ができるのか不思議だったけど、これを読んで理解出来た。通常の暗号解読と違って、時間的制約が無いのが…

口笛吹いて - 重松清

敗者、弱者を主人公にした短編集。5つの作品がすべて哀しい物語。すべてがかなりリアルで、身近にあるような話なので、ちょっと気がめいってしまうところもあるけど、ついついページをめくってしまいます。最後は、ほんの少しほっとさせてくれるところが救…

暗号解読 上巻

暗号の歴史とその発展を描いた話題作。単なる暗号の仕組みを解説したものではなく、暗号作成者と暗号解読者たちの壮絶なドラマが描かれています。上巻では、単アルファベット換字式暗号から徐々に複雑になっていき、第2次世界大戦で用いられた自動暗号作成…

Itと呼ばれた子―完結編さよなら "It"

「ITと呼ばれた子」3部作の最終巻、幼い時から母親による虐待を受け続けたデイヴ ペルザー。18歳になり里親から離れ独り立ちした彼が、苦しみながらも、困難に立ち向かい、それを乗り越え幸福を掴み取るまでの軌跡が描かれています。とても良い本だと思い…

送り火 - 重松清

架空の私鉄「富士見線」の沿線を舞台にした連作短編集。9つの短編が収められています。ホラーっぽい作品も何篇か収められていて、これと言って、ひとつのテーマを扱ったものではないようです。しいていえば、テーマは「人の抱える悩み」でしょうか。いや、…

こころ - 夏目漱石

まずは、Bookデータベースからの抜粋 親友を裏切って恋人を得たが、親友が自殺したために罪悪感に苦しみ、自らも死を選ぶ孤独な明治の知識人の内面を描いた作品。鎌倉の海岸で出会った“先生”という主人公の不思議な魅力にとりつかれた学生の眼から間接的に主…

Itと呼ばれた子―少年期ロストボーイ

『ITと呼ばれた子 幼年期』の続編。母親からの虐待から逃れ、里子として暮らした12歳から18歳までの多感な時期の出来事が描かれています。あれほどまでにむごい仕打ちを受けながらも、母親の愛を欲してしまうデイビット少年のことを思うと胸が張り裂けそ…

アルゼンチンババア - よしもとばなな

半年ほど前に中学生の娘と本屋に行ったときに娘が買った本。「アルゼンチンババア」という変な題名と「ばなな」という作者名に興味を持ち、なんか面白そうだからという理由で購入を決めた彼女ですが、中学生にはまだこの小説のよさは十分には伝わらなかった…

諸葛孔明(下) - 陳舜臣

下巻も上巻同様、戦闘シーンは少なめで、孔明の心の動きを中心に描かれています。実際の孔明の心の動きを知ることはもはや不可能ですが、陳瞬臣が描き出した孔明が実物に近いとしたら、本当に一人の人間として尊敬に値する人物だったと思います。自分の野望…

諸葛孔明(上) - 陳舜臣

「三国志」の登場人物のなかでも人気の高い諸葛孔明の一生を描いた小説です。上巻は、孔明が生まれてから、赤壁の戦いまでが描かれていますが、有名な「三顧の礼」によって劉備玄徳に迎えられるまでにかなりのページを割き、その時代背景と彼の成長する過程…

天国はまだ遠く - 瀬尾まいこ

都会の生活・仕事に疲れきった主人公千鶴が、自殺しようと思ってたどり着いた人里離れた田舎の民宿。 しかしここで自殺に失敗した彼女は、自然に囲まれた生活のなかで少しづつ癒されていきます。心温まるとても良い本だと思います。 民宿の田村青年の関西弁…

ZOO(2) - 乙一

ZOO1に引き続き、ZOO2を読みました。6つの短編が収められていますが、ZOO1にはなかったドタバタ風の作品「血液を探せ!」が一番の僕のお気に入でしょうか。目覚めたら何者かに刺されて血まみれになったいた資産家とその相続人たちとのやり取りは、昔愛読し…

ZOO〈1〉 - 乙一

「カザリとヨーコ」そして「SEVEN ROOMS」と読んだところで、この手の話が、このあとも続くのか、とちょっと憂鬱になりました。ありえないような話だけど、実はどこかで起こっているかも知れない、と思わせる内容で、確かに面白いし、台詞も心理描写もすごい…

地下鉄(メトロ)に乗って - 浅田次郎

この小説は最近映画にもなっていますが、その内容をほとんど知らずに購入しました。もちろん、昭和初期にタイムスリップするという程度の情報は持っていましたが、想像とはかなり違っていました。もっと、ほのぼのとしたお話かなと思っていました。ネタばれ…

ウェブ人間論

『Web進化論』を書いた梅田望夫氏と作家の平野啓一郎氏の対談。Webの進化によって、人々の行動がどう変わるのか、生活がどうかわるのか、価値観がどう変わるのか、人の本質は変わるのか、といったことが対話の基本にあり、熱い対談が進んでいきます。対話の…

ご冗談でしょう、ファインマンさん〈下〉

ノーベル物理学賞を受賞したリチャード・P・ファインマン氏の自伝的エッセイの下巻です。下巻も上巻同様、さまざまなエピソードが語られています。そろばんマンとの対決とか、リオのカーニバルでのフリジデイラ(フライパン型のパーカッション楽器)の演奏を…

海の仙人 - 絲山秋子

宝くじにあたった主人公の河野は、会社を辞めて、海が美しい敦賀でひとりひっそりとした生活をしています。そこへ突然、変なおじさんが姿をあらわします。それが、神様「ファンタジー」。この変な神様「ファンタジー」と、孤独に向き合う男女が織り成すちょ…

竜の柩(6) 交霊英国編 - 高橋克彦

「竜の柩」最終巻。少し前に読んだ宮部みゆきの「あかんべえ」が「お化けさん」が出てくるお話で、偶然にもこの「竜の柩(6)」も幽霊が題材。パラレルワールドに迷い込んだ主人公たちが、元の世界に戻るために、霊媒師の力を借りに英国に向かいます。なぜ…

あかんべえ(下) - 宮部みゆき

後半、2つのクライマックスがあり、両方とも泣けます。そして、暖かい気持ちになります。宮部みゆきには珍しいドタバタ劇もあり、笑いと涙ありの感動物語になっています。彼女の作品らしくない部分もあり、異色の作品かな、と思います。もちろん、宮部みゆ…